2006年7月17日 (月)

さくら 第一話

今年もまた春がやってきた。寒かった冬を越えて生命に息吹を感じる季節だ。

社会人になってからというもの、ゆっくりと桜を見る余裕さえなく、ただ社会の歯車となってがむしゃらに働く毎日だった。

ただ、この時期になると思い出すことがある。

もう、何年前のことだろうか。

今でも忘れない、いやこれからもずっと忘れないだろう春の思い出。

桜の咲く季節に、また君に会える気がして。

     

いつからか僕らもまた 嫌いだった大人になった

     悲しみさえも受け流して そんなことに慣れていたな

     気付けばホラ、空の青に隠した涙



キーンコーンカーンコーン

遠くでチャイムの音が聞こえた。俺は浅い眠りから目覚めると窓の外を見た。

校庭に咲き乱れる桜が、春の風と共に散っていく。

そんな風景に見とれていると、校門付近に咲いている桜の下に誰かがいるような気がした。けれど、目を凝らしてみてみると誰もいなかった。

錯覚かな?と、自分で結論を出して、休み時間になった教室で馬鹿笑いをしているいつものグループに混ざりにいった。



長い長い、一日が終わる。

終礼が終わると、俺たちは我先に校庭に飛び出し部活が始まる前にサッカーを楽しむ。

30分くらいの間、仲間同士で汗を流してから皆で片づけをする。

そのときふと、一人の女の子に目が行った。

うちにあんな子がいたかな…。

その時、女の子と目が合って、笑顔を見せた。

俺はなんだかはずかしくなって、白い雲の浮かぶ青い空に目をそらした。

     

さくら舞う風の中 あの日君がくれた笑顔

     今もこの胸の支えです  同じ空を見てた

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2006年6月26日 (月)

第二章 HOLIDAY 第3話

気が付いたら、僕は姫音を抱きしめていた。

泣きそうな顔でうつむいた姫音を見て、僕はなんだか切なくて胸が苦しくなった。

それから二人はごく自然に愛し合った。

僕も姫音も始めての経験だったけど、順序とかそんなものじゃなくて、そこには愛があって、姫音がいて、ぬくもりがあった。

気が付くと8時になっていた。

バイトには完全に遅刻だけど、なんだか不思議と僕は安らいでいた。

真っ暗な部屋で、長い時間僕たちは何も言わずに抱き合っていた。






     揺れては、また繰り返す いつまでも ずっと・・・きっと

     二人でいる時間だけ 足りないんだ もっと・・・もっと

     知らなかったはずなのに、懐かしいよ 一個一個

     すべてが僕の心に・・・染み渡って行く・・・





そして、それが僕たち二人にとって最初で最後のつながりになった。




秋になって、まもなく姫音のガンは再発した。

また入院生活が続いて、僕は毎日、姫音を見舞った。


けれど、今度は・・・姫音は帰って来なかった。

もぅ、あの笑顔を見ることも無い。あのぬくもりも感じることは出来ない。

あの綺麗な声を聞くことは無い。もぅ、君に愛してるって伝えられない。


僕は姫音の最後を見届けた。

最後に姫音は僕に笑ってみせた。僕も笑顔を返した。

姫音の手から力が抜けた瞬間、僕の中で何かが切れて目からとめどなく涙があふれた。

それからはお通夜とかお葬式とか、なんだかあわただしく過ぎ去っていった。





あれからもう一年が経つ。

僕は未だに立ち直れていない。

僕は弱い人間だ。この悲しみを乗り越えるための力は僕には無いよ。

ねぇ、もう一度だけ君が笑顔をくれたなら・・・君との日々を思い出に出来るかな?

僕は一生、君と生きていくよ。それを君が望んでいるのかはわからないけど。





今日は、雨が降っていた。

すべてを流し去ってくれる雨。

君と出会った駅のホームで、流れる涙をごまかしてくれてる。

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2006年6月24日 (土)

第二章 HOLIDAY 第二話

姫音は散らかってるというけれど、彼女の部屋は僕の部屋よりかは何倍も片付いている。

冷房が少し寒かったので、僕はエアコンのスイッチを切り、部屋の真ん中に置かれたガラスの低いテーブルに姫音と向かい合って座る。

そうして、僕らはおしゃべりに時間を費やし、たまにゲームをしてみたり。

いつものように、二人の時間は過ぎていく。

二人でいる時間は本当に早く感じる。気が付けば7時になっていた。

「あ、俺もうバイト行かなきゃ」

「またバイト?あんまり無理しちゃだめだよ?」

僕の計画は姫音には秘密にしてある。驚かせようと思ってだ。

「わかってる。来月は一日中一緒にいれる日作るから!!」

僕はそういって、部屋を出ようとした。

「そんなにバイトしてどうするの?」

僕はドキッとした。顔に出ないように気をつけながら

「い、いや、ちょっとほしいものがあるんだ」

と笑いながらごまかす。

「そっか。私はね、蓮音がいればほかに何もいらないよ」

寂しそうな顔で姫音は言った。

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2006年6月16日 (金)

Rainy Day 第3話

それから何週間も姫音は駅に来なかった。

僕はまた雨が嫌いになった。

梅雨の季節は終わったのに、雨は降り続いていた。

まるで僕の気持ちをあざ笑うかのような、雨。

初めて姫音に出会ったあの日みたいな霧のような、雨。




Rainy Day 冴えない頭の中
          
        君の事思ってる
 
        やっぱ君がいないと

        あぁ・・・僕は駄目だ・・・。




夏が来た。いまだに姫音は姿を見せなかった。

携帯も電源を切っているようだった。入院してれば仕方ないだろう。

ぼくはとうとう、姫音に会いに行くことにした。

迷惑かもしれない。

けれど、もぅ僕の気持ちはとめられなかった。

会いたい。これだけ人を好きになったのは初めてかもしれない。

たかが、一目ぼれ。あさ10分くらい喋るだけの仲なのに僕には姫音が忘れられなかった。

「蓮田 姫音さんの病室は・・・?」

僕は看護婦さんに聞いて、病室の前までたどり着いた。

すこし迷ったけど、ここまできたら姫音に会おうと思って部屋の扉をノックした。

「だれ?」

「おれ・・・蓮音」

少し間があった。

「入っていいかな?」

「だめ。入らないで」

大きな声で拒否されて俺は動揺した。

「そっか。また会えるようになる?」

俺は少し震える声で言った。

また姫音は答えなかった。

長い沈黙。

「入ってきて」

姫音は小さな声で言った。

俺は横開きの扉を開けた。するするとあいた扉の向こうには透明なビニールの壁に覆われた姫音がいた。

「お前・・・」

「あたしね、がんなんだって・・・。もぅ直らないかもなんだって。」

そういって姫音はかぶっていたニット帽をはずした。

「みて、髪の毛もこんなんになっちゃったし。はは・・・」

姫音は笑顔でそういった。その顔は不安とか僕には計り知れない気持ちが混ざりあっていていつものように輝いてはいなかった。

なんだか、僕はとても泣きたくなった。

ほんとは泣きたいのは姫音なのに。僕が励ましてあげなくちゃいけないのに。僕には好きな人一人、笑顔にするだけの力もないんだ。

僕はなんだか、訳のわからないまま無菌室に入った。もちろん白衣とかは着ていた。

それから・・・姫音にキスをした。時間にしてほんの2秒。

けれど僕らにはとても長い時間だった。

唇が離れたあとに見つめた姫音の目からは、外と同じような大粒の雨が流れていた。

それから何ヶ月か経った。

それから姫音はとてもよく頑張った。痛みに耐え、手術に耐えた。

僕も出来る限り、姫音を支えた。

であった日。姫音が僕の太陽になってくれたみたいに、僕が姫音の太陽になろうと思った。

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そして、とうとう姫音は外泊できるまでに回復した。

今日は姫音の初外泊日。両親が来るらしいので僕は自宅待機。

外は・・・やっぱりあめだった。せっかくうれしい日なのに。

でも、僕は雨は嫌いじゃない。

だって、晴れない雨はないから。

Rainy Day 君には明日会えるさ

        太陽とも会えるさ

        君にはやっぱ今日会いに行こうかな?

Sunny Day あぁ・・・明日はハレルヤ!!

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2006年6月12日 (月)

Rainy Day 第2話

僕の視線はそこに釘付けになった。

雨の中でひときわ輝く、お日様のような笑顔で僕の落ち込んだ心は少し晴れた気がした。

それからは、僕はずっと一番前の電車に乗り続けた。

一番後ろの車両より5割増しに込んだ車両の中で、僕は目をつむって君の笑顔を思い出していた。

そして、木曜日が来た。

木曜といえば学校が休みの日だ。なのに僕は駅のホームに立っていた。

いつもと逆側のホーム。一番前じゃなくて一番後ろの車両。

僕は君をもっと近くで見たいと思った。気持ちが悪いかもしれないけれど。

今だから言えることだけど、僕は君に一目ぼれをしたんだ。

僕はドキドキしながら君を待っていた。

だけど・・・


君は来なかった。

次の日も、そしてまた次の日も。


いつもの場所に、君がいない。

いつもの場所に、笑顔が咲いていない。


僕が少しあきらめかけた時だった。ふと、いつもの場所に視線がいった。

いた。

君がいた。

ホームにはやねがあるけれど、大粒の雨が降り続くその向こう側。

いつもの笑顔を振りまいて、君が咲いていた。

僕は、思わず駆け出していた。

全速力で階段を上って、息をきらせて君の隣に座った。

「久しぶりだね」

少し、不機嫌そうに僕は言った。

そのとたん、僕の体をしびれのようなものが走ってとてつもない後悔に襲われた。

いったい、僕はなにを言っているんだ。

僕の一方的な恋。話したこともない。ましてや向こうは僕の存在すら知らないだろう。

けれど、君はその笑顔のまま言った。

「えぇ、風邪をひいていたから」

そういって、君はくすくす笑った。

「なにかおかしいかい?」

すべてがおかしいことは僕にもよくわかっていたが、そうゆう以外に会話を続ける方法がみつからなかった。

「だって・・・全速力で走って来るんだもん。びっくりしちゃって。トイレにでも行くのかと思った」

君はずっと笑い続けていた。

「それは・・・」

答えにつまった。

僕はふと気が付いた。

「みてたの?」

「えぇ、あなたが始めて向かいのホームに来た日からずっと」

心臓がドキドキと大きく脈打った。

「僕も・・・ずっと君を見ていたんだよ」

それだけゆうのに、どれだけの勇気を振り絞ったろう。

整いかけた呼吸がまた乱れてきた。

そこで君は、初めて笑顔から驚いた顔へといつもと違う顔をみせた。

驚いた顔もとても綺麗だった。

そしてそれがきっかけで、僕たちはお互いの電車が来るまで会話をする仲になった。

彼女の名前は姫音といった。

体が少し弱いこと、車両を変えた日僕の表情は今にも雨が降り出しそうだった。と姫音はいっていた。

そして、またしばらくがたった。

僕はずっと待っていた。君が来るのを。

いつもの電車を見逃しても君は来なかった。そう思ったときだった。

携帯が震えた。

『新着メールあり』

メールマークをクリックすると姫音からのメールだった。

「しばらく入院することになりました。少し寂しいけど、元気になったらまたたくさんお話しようね」

たっぷり1分はみていただろうか。僕は携帯を閉じてホームへと足を運んだ。


Rainy Day  君のいない日には

         足取りも重くなる

         あぁ・・・ぎりぎり遅刻・・・。 

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2006年6月 9日 (金)

Rainy Day 第1話

僕は雨が嫌いだった。

心までが曇ってしまうような、薄暗い空。

けれど君に出会ってから、僕は雨が好きになった。

お日様の代わりに輝く君の笑顔を僕はずっと見ていた。

駅のホームの向こう側。僕はずっと君を見ていたんだよ。




梅雨に入ってから、僕は毎日浮かない気分で学校に足を運んでいた。

もちろん、こんな気分では勉強なんかはかどるわけもないし、遅刻も多くなっていた。

大学に入ってからすでに1年が経ち、生活にも落ち着きが出てきた最近はバイトも初めた。

けれど、雨が僕の気分を台無しにしていた。

その日もやはり雨だった。

まだ気温が上がりきらない朝の空気にまじって、霧のような雨が僕の腕をぬらしていた。

なんだかジメジメしたまとわりつく駅のホームで僕はなんとなくタバコを買った。

高校生の時、先生にばれてから吸ってはいなかったが最近、なんとなくまた吸い始めてしまった。

いつもはホームの一番うしろに向かうけど、タバコを吸うために初めて灰皿のある、ホームの一番前に向かった。

喫煙場所は曇っていた。おびただしい数の喫煙者たちがタバコの煙を吸っては吐き、吸っては吐いていた。

僕は少ししりごみしたけど、ここまで来てしまったしその有害な煙の中に入っていった。

フェンスにもたれて、タバコに火をつける。

白い煙が出て、僕の口の中に苦い味が広がった。

いったい、僕は何をしているんだろう。

一生懸命はいった大学で、やる気がうせ、その上タバコまですってしまっている。

僕は、ふぅとため息をついて空を見上げた。

灰色の厚い雲の下を飛行機が通っている。なんでもない光景が、今の僕をとても馬鹿にしているように思えて腹が立った。

僕は視線を前に戻して、向かいのホームをみた。

自転車を停めている人、コンビニに入っていく人。コンビニの前では、またおびただしい数の人たちが空気を白くしながらタバコをすっている。

僕は端まで目線を流していった。

一番端までいった時、僕は息をのんだ。




その中で君だけが楽しいそうな笑顔で立ってたね。

なんだか君が光っているような気がして、僕の目にはもう君しか映らなくなっていたんだ。

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2006年5月30日 (火)

おじいちゃん

僕はおじいちゃんが苦手だ。

小さいころから、たまにうちに来ていた。

家にきては飲んで、威圧感のある目で僕に話しかけてくる。怖かった。

僕はおじいちゃんが家にくると、いつも自分の部屋でゲームをして逃げていた。

僕が大きくなって、おじいちゃんと飲みに行くようになった。

けど、おじいちゃんは自慢のマシンガントークで僕に話をさせる暇を与えずにしゃべってくる。あの威圧感のある目で。

そんなおじいちゃんが突然死んだのは半年前のことだった。

やはり、苦手だとはいっても思い出が水に溶けて目からあふれてくる。

葬儀も終わり、ひと段落つきいつもの生活に戻るとすぐに忙しさのなかにおじいちゃんのことは埋もれてしまった。

チャイムの音が鳴る。

お、来客だ。

「はいはい、今あけますよ」

「え・・・」

おじいちゃんがきた。

「死んだはずじゃ・・・」

おじいちゃんは言った。

「わしはここにおる」

じゃあ、半年前の事は?僕の頭は混乱と恐怖でいっぱいだ。

「大人になれば、勘違いなんて日常茶飯事じゃよ。そのとき臨機応変に対応できるかがその人間の価値になる」

そんなもんか・・・。

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2006年5月22日 (月)

永遠

すべてがうまくいかない日だった。

3日前の出来事である。

朝から寝坊。あわてて家を出たので靴下を履き違える。駅のホームでひっくり返る。

朝から不吉な日だった。

そして、昼。

大事な会議で男は大失敗をした。取引先の社長を怒らせてしまったのだ。

原因はとてもささいなことだった。

社長の大好きなアニメを馬鹿にしてしまう。とてもしょうもないこと。

しかし、その会社との取引中止は3億の損失を意味していた。

次の日、やはり男は退職を言い渡される。無論、退職金なんて出なかった。

次の日、むしゃくしゃした気分をしずめるため男は海に来た。

そして、今日。男は海辺を散歩していた。波の音が男を小ばかにしたように聞こえる。

男はいっその事このまま海に沈んでしまおうかと、死場所を探した。

そのとき、男は何かにつまずいて転んだ。景色ばかり見ていたからだ。

男は余計に腹が立ち、その何かをにらみつけた。

それは、陶器製の壷だった。さびが目立ち波打ち際にさびしく放置されていた。

男はその陶器の壷を思いっきり蹴飛ばした。

しかし、それはどこにも飛んでいかずそのままの位置で静かにそこにあった。

男の頭の中で何かがきれた。

男はやにわにその壷を持ち上げると、防波堤に激しく打ち付けた。

しかし、それは割れなかった。

何度も何度も打ちつけた。手がしびれて壷がもてなくなるまで。

男は壷を破壊することをあきらめた。中に何が入っているのかに興味がわいてきたのだ。

男は壷を宿屋に持ち帰り、しっかりとはまっているコルクの栓をはずした。

すると、もくもくと煙が立ち上った。煙が収まってきたころ、男は誰かいるのに気づいた。

「お前は誰だ」

「私は古来エジプトの魔人でございます。壷の中に閉じ込められ3000年もの間海をただよっていたのでございます。」

「よくある話だな。願いを三つかなえるとでも言うのだろう」

「願いはかなえますが、1回だけでございます。お礼をしたいのはやまやまなのですが3000年の間に魔力が失われ魔法が使えなくなってしまいました」

「一回か・・・」

しかし、男の中では答えは決まっていた。

「よし、私の願いはこれだ」

「なんなりと」

「私を3日前に戻してくれ。それさえかなえばすべてうまくいく」

「しかし・・・」

「いいんだ。金なんかはこれからもうければいい。私はそれなりに女にもてる方だし、権力なんてのも馬鹿らしい。私の今の最大の後悔である3日前の出来事、あれさえなくなれば・・・」

魔人は何かいいたげだったが

「わかりました」

というやいなや、空間がゆがんだ。

男は3日前に戻っていた。

何もかも3日前だった。もちろん記憶も。

そして、男は遅刻をし、会議を失敗し、首になり、魔人にあって3日前に戻る。

永遠にこれが繰り返されるのかと思うとうんざりする。

男の気が変わり時間を戻すのをやめるときが来るのだろうか。

いや、ないだろうな・・・。

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2006年5月 1日 (月)

“未定” 一章  「目覚めた朝に」

しばらく、風の音だけが聞こえていた。

ハナは手を下ろすと、村へと続く坂道を下っていった。

うちへ帰ると、やはりハナの母であるミーナの怒鳴り声が聞こえた。

「ハナ!!今日も剣術の稽古さぼったんですって!?いったいどうゆうつもり!?」

毎回の事なので、ハナは相手にしないことにしている。

「ちょっと、聞いてるの!?ハナまちなさい!!」

バタンと勢いよくドアを閉めるとミーナの声が遠くでかすかに聞こえるボリュームになった。

ミーナはドサッとベットに寝転がると、枕の下から本を取り出した。

その本は、今世界でもっとも注目されている冒険家ドグマの冒険記である。

いまだに、世界の多くの場所は未踏の地になっていて人の手が入っているのはこのガイアの30%だといわれている。

[私はもっと、世界を知らなければいけないんだわ・・・。」

本をひらくと、いつもハナはそう思う。しかし、ハナは旅に出るには幼すぎた。

それはハナ自身がよくわかっていたし、平和なこの村ではたまに山から下りてくる狼がせいぜいのモンスターだ。

人の手のはいっていない未開の地でハナが生きていける自身もなかった。

毎回、自分の弱さに憤りを感じながらハナはいつの間にか眠ってしまうのだった。

「ハナ、おきなさい」

体をゆすられハナは飛び起きた。

「ごはんよ」

ミーナは一言そうゆうと部屋から出て行った。

ハナの家族はミーナだけである。父親はミーナが生まれる前に死んだらしい。

いつもの二人だけの夕食。会話らしい会話もなくせっせと食べ物を口に運び二人の夕食は終わる。

しかし、それでもハナはミーナのことが好きだった。

たった一人の家族。いつもは口うるさいけど、いい事をすれば本気でほめてくれて悪いことをすれば本気で怒ってくれる。ハナにとってそんな人物は一人しかいなかった。

ハナは食事を済ませ、食器を洗ってさかさまにして置くとすぐに部屋にあがる。

そして、眠気に再び引きずり込まれていくのだった・・・。

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2006年4月24日 (月)

“未定”  一章  「目覚めた朝に」

夜の闇がルルア島をしずかにつつんでいった。

音もなく広がる夜の侵食は、境目もなく昼を夜にしていく。

ハナはルルア島の中央にそびえたつ神の山ギブル山の中腹あたりの崖に腰をかけ、打ち落とされた戦艦のように落ちていく夕日を見ていた。

ギブル山は聖なる土地とされ、古くからのしきたりで入ってはならない土地とされていた。

けれど、島の恋人の多くは山を登り、そこを密会の場としてつかっている。その事実は島の者なら誰でも知っていることだったが咎める者もおらず(自分たちも使っていたから)それは暗黙のうちに承認されていたのである。

ハナは一人で山を登ることが多い。山にはモンスターもでるが大したことは無いし、ハナはギブル山のふもとの村では一番の剣の達人だった。

ハナはここから見る夕日がとても好きで、稽古を抜け出してはこの場所で夕日をながめ夜になると何も無かったように山を降りていくのだ。

今日はいわし雲の出ている夕焼け空だった。明日は雨かもしれない。と思いながらハナはぼんやりとますます赤みの増していく夕日を見つめていた。

「・・・」

ふとハナは誰かに耳元でささやかれた気がして後ろを振り返った。

誰もいない。森は静かに風と一緒に揺れていた。森の少し上ではもぅ、月が輝いていた。

『そろそろ帰ろうかな・・・』

そう思ってハナが立ち上がった瞬間、茂みがガサガサと揺れたかと思うといきなり狼がハナに飛び掛った。

ふいを突かれたハナは剣を抜く暇も無く、左腕に鋭い痛みを感じた。

左の二の腕あたりに、三本の赤い筋が通った。

「っ・・・」

狼は身軽に着地すると、もぅいちどハナに襲い掛かってきた。

しかし、次の瞬間ハナの剣が鋭く光ったかと思うと狼は腹の辺りから真っ二つに割れ、どさっと地面に落ちた。

ハナはすでに物体になった狼を見下ろして静かに手を合わせた。

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